#5 『敗恋ノ二 -鼠女-』

恋とは常に想定外。人は正体不明のものにしか興味を持つことができない。 

ーー獣 亮ーー

 

ついに意を決してdmの相手を映画に誘ってみた獣。どうなる?

#4『敗恋の1 -発端-』を読んでない人はそちらからお願いします。第二話、必ずチェックメイトする。

 

『敗恋の2 -鼠女-』

俺は言った。下心を感じさせず、本当に俺の興味ありそうでかつ相手も見たそうな映画

るろうに剣心とかどうかな?』

るろうに剣心かー、私も見たい!けど前のやつ見てないんだよね!』

軽くいなされた。恋愛経験がない獣にとってここで押す選択肢はない。優しさという名のサレンダーの一本道である。『そかそかー、それはしょうがない笑 見た方がいいよ!』

そんなに上手くはいかない。しかし、ひょんなことから始まった就活の話から局面は新たな展開を迎える。

『獣君、〇〇(就活エージェントサービス)って知ってる?』

就活エージェントサービスとは、就活生の面接、ES対策や、企業研究などを手伝ってくれるサービスのことである。

『いや、知らないなー、あんまりそういうの使ってないんだよね』

この話が始まると、それまで週一ぐらいだった彼女の返信ペースが24時間を切るようになってきた。

ん?自分で言うのもなんだが獣、自慰君道を修めているだけあり警戒心は強く勘も鈍くはない。

正直就活エージェントにいいイメージを持ってる大学生は多くはないだろう。そのどれもが情報弱者の就活生を集め、あたかも意識の高い集団かのように見せかけて内定が簡単に出るブラックまがいの企業を推薦し、そこへの内定獲得率を看板に書くような連中。それが大体の大学生からのエージェントのイメージだろう。

 

『私、〇〇ってとこに教えてもらった企業に就職決まった!』『そこでやってくれる就活相談とか受けてみれば?』『私は社会人になるための講習受けてるけど、本当にためになる!』『正しい生き方みたいなの学べてる気がする!』『2年目で年収500万はやばくない?』

畳みかけられる言葉を前に私はドラマ、池袋ウエストゲートパークで主人公マコトの母親が人の良さを利用されネズミ講団体にハメられた回を思い出していた。

そしてついに決定的な言葉が出た。

『獣君も一緒にどう?獣君が一緒なら楽しそうだな!』

 

[就活が終わっていない]当時の私のこの状況が、私に呼吸をする"間"をくれた。

スマホは便利だ、彼女が言っていたエージェントの会社をGoogleに入れる。すると、、、

『〇〇 宗教』『〇〇 辞めたい』 『〇〇 マルチ』

予想通りであったが、いざ直面するとここまで頭の弱い女がいるのかという残念な気持ちが正直な感情だった。

 

思考が加速する。せっかくここまで来た。返信の頻度ももはや1時間を切ることも多い。獣君と一緒なら楽しそう。そこまで言ってくれている。確かにマルチであることはほぼ確。だがそれを俺が自覚してるなら大丈夫では?この話に乗れば一緒にご飯や遊んだりは余裕なのでは?

 

この1時間で彼女とのSNSでのラリーは往復3回ぐらいまでの高頻度になっていた。そのためいきなり時間を置くことが不自然だと感じ、20分と言うスピードで私は返信した。

 

 

『いやぁ、ごめん!すごいタメになりそうなんだけど俺まだ就活終わってなくて終わっても時間取れなそうだから今回は見送らせてもらう!せっかく誘ってくれたのにごめんね!』

 

 

『全然いいよ!』2秒で打てるこの返信が来たのは5日後のことだった。

 

終わった....これは決して振られたわけではない。しかし、相手が悪かった...流石にネズミ講どっぷり女はいくら顔が可愛くて華奢な色白薄顔でも渋さがある。

 

私は恋という夢から就活という現に自分の身を戻すことにした。

 

そしてこの恋に完全な決着がつくのは、就活も終わり、暑さと暇に耐えることで精一杯になった夏のことだった。

 

[次回予告]

2ヶ月もの時間が空いた。半年弱で急接近した2人にとって、2ヶ月の空白というのはあまりに大きく...

『決着をつけよう....鼠』

獣が最後の誘いをかけた日付は8/12と8/16日の2日。タイムリミットは10日!10日以内に返信は来るのか?そして、その返信の内容とは?

次回、甘く切ない2人のSNSラブ巨篇ついに完結!『敗恋ノ三 -敗恋-』ご期待ください。

 

次回の更新までご機嫌よう。